もらい事故とは?被害にあった際の対処法や請求できるお金、示談の注意点

「赤信号で停車していたら、後方から前方不注意の車に追突された!」

このような当事者の一方に100%の責任があり、被害者にはまったく責任がない交通事故を「もらい事故」といいます。

もらい事故では被害者に過失がないため、きちんとした補償や対応があると思われがちですが、実はそうではありません。

なぜなら、被害者に過失がない以上、被害者側の保険会社は保険金を支払う責任
を負わないため、示談を代行できないからです。

そのため、被害者自身が加害者側と示談交渉をしなければなりません。

そこで、示談交渉で損をしないために、どういった請求ができるのか、どういった対応すべきかについて知っておくことが大切です。

このコラムでは、もらい事故の被害にあったときの対処法や注意点に加え、請求できるお金や使える保険、示談交渉のポイントについて弁護士が解説します。

もらい事故とは?意味や具体例

もらい事故とは、どちらか一方に100%の過失があり、他方にまったく過失がない交通事故のことです。

たとえば、次のようなものです。

  • 信号待ちで停止中に後方から追突された
  • 信号無視の車に衝突された
  • センターラインを超えた車に正面衝突された

したがって、もらい事故の過失割合(交通事故の当事者それぞれの責任の割合)は、加害者10割、被害者0割になります。

もらい事故の違反点数への影響

交通違反をした場合、内容に応じて違反点数が加算され、免許停止や取消しなどの処分となる点数制度があります。
しかし、当然ですがもらい事故では被害者の過失が0であるため、違反点数の加算はありません。
ただし、もらい事故ではなく、被害者にも過失があると判断された場合、被害者にも違反点数が加算されることがあります。

もらい事故が発生したときの対処法と示談までの流れ

もらい事故にあった場合、落ち着いて正しい事故処理をするように心がけましょう。

交通事故の発生から示談までの流れは、一般的に次のようになります。

事故後の対応について、時系列に沿って説明します。

(1)もらい事故の発生直後の対応

もらい事故の被害にあったら、直ちに安全な場所に車を停止し、ケガの有無を確認します。
周囲の安全を確保したら、すみやかに警察に連絡しましょう。
警察官が現場に着いたら、警察官の指示に従い、事情聴取に応じたり、実況見分調書の作成に立ち会ったりします。

加害者の氏名や住所、連絡先、自動車保険の会社名や、車のナンバーなどを確認しておくようにしましょう。

(2)病院を受診

目立った外傷がなくても、なるべく病院を受診するようにしましょう。
時間が経ってから自覚症状が出ることもありますが、事故から受診まで間が空いていると、ケガと事故の因果関係が認められないリスクが高まってしまいます。

それでは、ケガをした場合と後遺症が残った場合にそれぞれ必要な対応について解説します。

【ケガをした場合】通院・入院で治療~完治・症状固定

ケガをした場合にはすぐに病院を受診し、必要な検査をしてもらうようにしましょう。

ケガの種類によっては、事故直後ではなく、しばらくしてから痛みやしびれなどの症状が現れることがあるため、油断は禁物です。

【後遺症が残った場合】後遺障害等級の等級認定

そもそも後遺症とは、症状固定(※)時点において、完治せずに残ってしまった症状のことです。
後遺症が残った場合、後遺症について慰謝料などの賠償金を受け取るためには、原則として後遺障害の等級認定を受ける必要があります。
「後遺障害等級」は、後遺障害の内容に応じて、重いものから順に1級から14級に割り振られています。

後遺障害の等級によって、慰謝料などの賠償金の金額が決まります。

※医学上、一般に認められた治療をしても、それ以上効果が期待できない状態のこと。

(3)治療終了後に示談交渉を開始

一般的に、示談交渉は治療終了後に行います。
具体的には、ケガが治った場合には完治後、後遺症が残ってしまった場合には後遺障害の等級認定の審査結果が出たあとになります。
後遺症が残った場合、後遺障害等級が認定されれば賠償金額が上がる可能性があるため、示談を急がないようにしましょう。

示談交渉が始まると、加害者側の保険会社から賠償金の提示があります。
しかし、初回の提示が高額だと感じても、すぐには応じないようにしてください。
賠償金の内訳について、それぞれ適正な金額かどうかを確認する必要があります。

治療費や仕事を休んだことなどによって経済的に苦しいときは、示談成立前であっても保険会社が治療費などの一部を前払いしてくれることがあります。
一度保険会社と話してみるとよいでしょう。

(4)示談成立・賠償金の支払い

示談の内容に納得できたら、示談書を作成し示談成立となります。

賠償金の振込先は、弁護士に交渉を依頼している場合には弁護士名義の口座となることが多いです。本人が交渉している場合には、本人名義の口座に振り込まれます。

もらい事故で請求できる賠償金

ここでは、もらい事故で加害者側に請求できる基本的な賠償金の内訳について、車が故障した場合とケガをした場合に分けて解説します。

車が故障した場合

車が故障した場合に請求できる賠償金の内訳は、主に次のとおりです。

  • 車両の修理費
  • 車両の買替差額と買替諸費用

ただし、請求できる修理費は原則としてその車両の時価額が限度です。

修理費用が車両の時価額を上回っている場合、車両の時価額の限度でしか請求できません。

また、もらい事故により車両が損傷を受けたけれども、修理費ではなく、買替差額(事故時の時価相当額と売却代金の差額)または買替諸費用(事故車両と同種同等の車両を取得するのに要する費用)が損害賠償の対象となる場合があります。

そして、買替諸費用として認められる費用は、たとえば次のようなものです。

  • 買替車両の自動車取得税(車両価格が50万円以上の場合)
  • 事故車両の自動車重量税の未経過分(解体依頼・抹消登録により還付された分は除く)
  • 自動車検査登録・車庫証明・廃車にかかる法定費用
  • 自動車検査登録手続・車庫証明手続・廃車手続の代行費
  • 事故車両の廃車・解体費用   など

車両が破損した場合は、「交通事故被害で請求できる損害(物損・その他)」もご覧ください。

交通事故によってケガをした場合

交通事故によってケガをした場合に請求できる賠償金の内訳は、主に次のとおりです。

  • 治療費
  • 慰謝料
  • 休業損害
  • 後遺症による逸失利益

それぞれ説明します。

治療費

もらい事故によりケガをした場合には、治療費や通院交通費、被害者が幼い場合などには付き添い費用などを加害者側に請求できます。

慰謝料

ケガを負って受けた精神的苦痛については、慰謝料を請求できます。
交通事故でケガをした場合に請求できる慰謝料は、入通院慰謝料、後遺症慰謝料、死亡慰謝料の3種類です。

【慰謝料の種類は3つ】

入通院慰謝料交通事故でケガを負い、入通院を強いられたことに対する慰謝料で、治療期間や実際に入通院した日数に基づいて計算する。
後遺症慰謝料交通事故によるケガが完治せず、後遺症が残ったことに対する慰謝料。
基本的には、後遺障害等級認定された場合に支払われ、どの等級に認定されるかによって金額が変わってくる。
死亡慰謝料被害者が死亡した場合に請求できる慰謝料。
被害者の遺族にも独自の慰謝料請求権が認められる。

休業損害

もらい事故によりケガをし、いつも通り働くことができずに収入が減った場合には、その損害を休業損害として請求できます。

給与所得者の場合は、事故前の収入を基礎として、ケガによって仕事を休み、実際に収入が減った額が休業損害です。
もっとも、有給休暇を取得したことにより、実際には収入が減っていない場合であっても、休業損害は認められます。

後遺症による逸失利益

後遺症が残った場合、たとえば仕事中ずっと首が痛くて仕事に集中できなかったり、ひどいときには仕事に行くことすらできなかったりして、収入が減ってしまうことがあります。

そのような後遺症が原因で得られなくなった収入を、「後遺症による逸失利益」として請求できる可能性があります。

交通事故によりケガをした場合は、「交通事故被害で請求できる損害(ケガ・傷害)」もご覧ください。

もらい事故で使える自分の保険

加害者側からの損害賠償とは別に、自分が加入する自動車保険(任意保険)から、保険金を受け取れる場合もあります。
ただし、いわゆる二重取りのような形で、実際の損害額以上の金額を受け取れるわけではない点にはご注意ください。

人身傷害保険

人身傷害保険とは、交通事故で加入者本人や同乗者がケガをした場合に使える保険であり、治療費はもちろん、働けない間の収入などを補償してくれる場合もあります。

また、後遺障害が発生した場合や死亡した場合にも、逸失利益などの補償があることが一般的です。

車両保険

車両保険とは、交通事故により契約中の車に損害が生じた場合に使える保険です。
修理費など、実際に支出した金額が全額補償されるわけではないため、契約内容をよく確認しておきましょう。

もらい事故の注意点

もらい事故の被害にあった場合には、いくつか注意点があります。
損しないためにも、ぜひ知っておきましょう。

もらい事故の場合には保険会社に示談代行を頼めない

被害者に過失がないもらい事故では、被害者は、自身が加入している任意保険会社の示談代行サービスを利用することができません。

示談代行は、交通事故の当事者双方に一定の過失がある場合に、双方の保険会社が交渉窓口になり、損害賠償などについて話し合うサービスだからです。

そもそも、保険会社が示談交渉を代行するには、自社の保険の被保険者(加入者)にも過失があり、事故の相手方に対して保険金を支払う義務が存在する必要があります。

被保険者に過失がないもらい事故において、自社に保険金の支払義務がないにもかかわらず、被保険者の示談交渉を代行すると、弁護士法第72条違反(弁護士でないにもかかわらず法律事務を取り扱う「非弁行為」)となってしまいます。

そのため、保険会社ではなく自分が示談交渉をすることになった結果、次のようなリスクが生じる可能性があります。

  • 相手の保険会社にとって有利な条件で交渉を進められてしまう
  • 本来受け取れるはずの金額よりも低い金額で合意してしまう

もらい事故でも自分の保険を使うと等級が下がる場合がある

人身傷害保険であれば、利用しても基本的に保険等級は下がりません。
人身傷害保険は、交通事故でケガをしてしまった場合に被害者を救済するための保険だからです。
一方、車両保険を利用すると、車両無過失事故に関する特約などがない限り、保険等級は下がってしまいます。

もらい事故の示談交渉で損しないためのポイント

もらい事故で示談交渉するとき、損しないためのポイントをご紹介します。

相手の保険会社の言いなりにならないよう注意する

一度示談が成立したら、基本的に撤回することはできません。
そのため、相手方の保険会社に提示された条件には安易に同意しないことが重要です。

安易に同意してしまうと、本来受け取るべき金額よりも低い金額しか受け取れなくなってしまいます。

特に、人身事故の場合は慰謝料の算定基準に注意してください。

実は、交通事故の慰謝料には3つの算定基準(自賠責保険基準、任意保険基準、弁護士基準(裁判所基準))があり、一般的にもっとも金額が低いのは自賠責保険基準、もっとも金額が高くなるのは弁護士基準となっています。

【3つの基準のイメージ図】

基本的に、保険会社が提示する金額は任意保険基準で算出しているため、弁護士が交渉すればそれよりも高額な慰謝料を受け取れる可能性が高まるのです。

弁護士費用特約を使って弁護士に依頼する

相手の保険会社が提示した金額に納得できないなら、増額交渉が必要になります。
しかし、被害者が自分で交渉しても、賠償金の増額にはなかなか応じてもらえないのが実情です。
そこで、交通事故の示談交渉は弁護士に依頼することをおすすめします。

通常、弁護士に依頼するとなれば費用が心配なところですが、交通事故の場合、「弁護士費用特約」により費用の心配なく弁護士に依頼できる可能性があります。

というのも、自分や家族の保険に「弁護士費用特約」がついていれば、保険会社が弁護士費用を負担してくれるのです。
そして、弁護士費用特約を利用しても、それだけで保険等級が下がることはなく、翌年以降の保険料に影響することもありません。

ただし、負担してもらえる金額は無制限ではなく、利用には一定の条件を満たす必要があります。

詳しくは「もらい事故で役に立つ!弁護士費用特約のメリット・使い方・タイミングを解説」をご覧ください。

もらい事故の示談交渉を弁護士に依頼するメリット

それでは、もらい事故の示談交渉を弁護士に依頼するメリットについて、一緒に見ていきましょう。

慰謝料の増額が期待できる

弁護士は、通常もっとも高額になる弁護士基準(裁判所基準)で慰謝料の金額について交渉します。
そのため、自分で交渉するより高額な慰謝料を受け取れる可能性が高まるでしょう。

後遺障害等級認定の申請手続を任せられる

交通事故によるケガが完治せず一定の症状が残ってしまった場合、自賠責保険会社に後遺障害等級認定の申請を行い、後遺障害と認定されたら後遺症慰謝料などを請求できるようになります。

後遺障害の申請手続には専門知識が必要ですし、どの等級に認定されるかによって受け取れる金額は大きく変わってきます。
その点、弁護士に依頼すれば、適正な等級認定を受けることが期待できるのです。

時間的・精神的負担が軽減される

弁護士に依頼すれば、交渉窓口は弁護士となり、基本的に保険会社との示談交渉をすべて任せることができます。
もらい事故のような、被害者に一切過失のない事故であっても、相手の保険会社の担当者に横柄な態度を取られることや、スムーズに対応してもらえないことがあり、その際には、多大なストレスを感じることでしょう。
その点、弁護士に依頼すれば、保険会社とのやり取りなどから生じるストレスの軽減が期待できます。

【まとめ】もらい事故とは被害者にまったく責任がない事故

信号待ちで停止中に後方から追突されたなど、加害者側に100%の過失がある交通事故を、一般的に「もらい事故」といいます。

もらい事故の場合、保険会社の示談代行がないため、自分で示談交渉を行わなければなりません。

交通事故にあった際に受け取れる賠償金の項目はさまざまですが、示談交渉の内容によっては、受け取れる金額が大きく変わってしまうことがあります。

しかし、保険会社を相手に、自力で示談交渉を行うことは難しいのが実情です。
適切な金額の賠償金をきちんと受け取れるように、示談交渉は弁護士に依頼することをおすすめします。

交通事故でケガをして、賠償金請求のことでお悩みの場合は、アディーレ法律事務所にご相談ください。

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この記事の監修弁護士
中西 博亮
弁護士 中西 博亮

弁護士は敷居が高く,相談するのは気後れすると感じられている方も多いのではないでしょうか。私もそのようなイメージを抱いていました。しかし,そのようなことはありません。弁護士は皆,困った方々の手助けをしたいと考えております。弁護士に相談することが紛争解決のための第一歩です。ぜひ気軽に弁護士に相談してみてください。私も弁護士として皆さまのお悩みの解決のために全力を尽くします。

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